オリジナルソファ「NORTH」はなぜ「NORTH」なのか。
皆さんこんにちは、MANUALgraph代表の鈴木です。
今回はMANUALgraphのヒットソファ、そして僕にとっても大好きで大切な1台である「NORTH(ノース)」の誕生秘話をお伝えしたいと思います。
「NORTH」を発売したのが2019年。もう今から3年前もになります。
ありがたいことに、発売から今日まで沢山の方にお届けをしています。
このソファは、実は20年来の旧友との繋がりの中で生まれた1台です。
青春時代を共に過ごし、それからそれぞれ別々の道を歩み、再びブランドを通じて再会を果たし、そして遂に20年ぶりに一緒にものづくりをした、と言う僕の個人的な想いのこもったこのソファの誕生ストーリーを、今回は皆さんにご紹介させていただきたいと思います。
まず先にお伝えすると、MANUALgraphには「商品開発計画」と言うものがありません。
ではなぜ新しいソファが生まれるのか?
それは、例えば「素材との出会い」であったり「誰かとの出会い」であったり、はたまた何かや誰かとの繋がりがきっかけだったりします。
今回ご紹介する「NORTH」と言うソファも、「20年来年の友達と一緒につくる」と言うきっかけがあって誕生したソファです。
目次
- 旧友クリエイターとの念願のものづくり
- アートディレクターによるプロダクトデザイン
- ミリ単位の調整
- 「薄さ」という制約から生まれた「スチールフレーム」
- 次の制約「座り心地」
- 「NORTH」はなぜ「NORTH」なのか
旧友クリエイターとの念願のものづくり
この「NORTH」は自社デザインではありません。
NSSG Incさんという東京を拠点に活動するデザイン事務所さんにお願いしました。
NSSG – Branding, DesignNSSGは、ブランディング、アートディレクション、インタラクティブデザインを軸として、音楽・ファッション・アート・出版・建nssg.jp
NSSGさんは、何を隠そうMANUALgraph立ち上げ当初からロゴデザインやホームページなどブランドの様々なアートディレクションをしてくれている会社です。
そしてさらに何を隠そう、代表の町田くんはもうかれこれ20年前、一緒にバンドをやっていたメンバーです。
そんな旧知のクリエイター町田くんが率いるNSSGさんですが、前述の通り当社の様々なと言うか、ほぼ全てのクリエイティブを制作してもらっていました。
でも唯一、一緒にやっていなかったこと、それが「ものづくり」つまりプロダクトデザインです。
彼と彼らの仕事やデザインが大好きな僕は、いつか一緒にものづくりをしたいとずっと思っていましたが、同時に彼らはアートディレクションが専門でプロダクトデザインはやらない、とも思っていました。
そんな折、勇気を持って町田くんに「今度ソファをデザインしてくれない?」と言ってみたところ彼はあっさり「いいよ。」とボソっと言ってくれました。
こうして、20年ほど前一緒に曲作りをした以来の彼との共同のものづくりが始まりました。
アートディレクターによるプロダクトデザイン
前述した通り、NSSGさんの専門はアートディレクション。
プロダクトデザインはやらないと勝手に思い込んでいましたが、彼らは彼らなりの「プロダクトデザイン」の手法を持ち合わせていました。
そんな彼らから最初に送られてきたのは「テキスト」でした。
他に何枚かのシーンのイメージ画像は添付されていたものの、正直「そこからか!」と思いましたが、ここから新ソファの開発は始まりました。
彼らにとっても「ソファをデザインする」という行為は初めてのこと。ものづくりを担うのはあくまで僕らの仕事です。
ただし彼らはデザインのプロ。このテキストを僕と我が社の職人が読み解くことが最初の仕事でした。
このテキストの中でつくり手である僕らが担う部分は、
最小化されたデザインの中でこそ活きる素材の良さや、マテリアルの質感を楽しめる
という部分。もうここはお任せください、と言う感じ。
NSSGさん側がイメージする質感の素材はすぐにピンときました。
長年多くのソファをつくってきた僕らはその素材のアーカイブと知識を数多持ち合わせています。
この部分はお茶の子さいさい、マテリアルはすんなり決まりました。
しかし、クリエイターとのものづくり、商品開発はそんなに甘いものではありませんでした。
ここからが茨の道です。
ミリ単位の調整
次に彼らから提示されたのはソファデザインのスケール。その対比です。
うん、ずいぶん薄いね、座面のクッションを支えるベースの部分が…。
以前noteにも書きましたが、当社のソファには当社のこだわりがあります。
その最大のこだわりはソファの座面の下で体を支える「Sバネ」です。
このベースの薄さでは、当社のこだわりである「Sバネ」は使えないし、そもそも薄すぎて強度が保てません。
これは決して否定ではないのですが、デザイナーさんやクリエイターさんとのものづくりでは、彼らは彼らの思い描くデザインを忠実に再現する為に、強度や構造を一旦無視してデザインをする、ということが多々あります。
しかし、だからこそ素晴らしいデザインのものづくりが実現できるのだと思っています。
デザインが制約に負うところは大きい
著書「建築家の名言」より
これはイームズの言葉ですが、どちらかというと逆の意味で、良いデザインは制約の中でこそ生まれると解釈していますが、つくり手は決してそれに甘んじてはいけないと常に思っています。
つくり手の技術や構造的な制約は確かに必要ですが、その制約を超えることに挑戦してこそ技術の進歩があるのだと思っています。
「薄さ」と言う制約から生まれた「スチールフレーム」
「薄い座面のフレームを実現しなければならない」というのが、今回つくり手の僕らに課された制約です。
これは長年、いつかはクリアしなければならない制約だと思っていました。
でもこだわりの「Sバネ」は絶対に使う。これもまたもう一つの「制約」です。
当社のソファのフレームは長年木材を使ってきましたが、そこには創業以来培ってきた知識と技術が詰まっています。
でも「制約」をクリアするには発想を変えなければいけません。
これを読んでいる方にとっては、ソファのフレームが木だろうがなんだろうがあまり重要な話ではないかもしれませんが、当社にとってはとても大事な話です。
コストの面や強度の面、構造の面から考えて木材以外の素材でフレームを作ることは小さな工場の僕らにとっては一大事。
まぁでもやるしかありません。
木材で強度が保てない以上、木材以上に強度のある素材を使うしかありません。
木材以上に強度のある素材、それはスチール「鉄」です。
そこで頼りになるのが、近所で鉄工屋さんを営んでいる話のわかる後輩です。
芹沢鉄工、通称「セリテツさん」の社長、僕の後輩の芹沢くんに早速相談です。
地域の経済は先輩と後輩で成り立っています(笑)。
早速相談しながら図面を描き、試作を重ね、NSSGさんが求めるべき「座面の薄さ」を実現するスチールフレームを共同開発しました。
ここでの制約は「Sバネ」を使うこと。
普段木製のフレームに取り付けている「Sバネ」を普段と同じピッチ(間隔)で取り付けられる様にスチール部分に穴を開け、その穴ひとつ一つにSバネを引っ掛けられる様にし、さらに強度を増す為に脚も溶接してもらい云々カンヌン・・・
「NORTH」のスチールフレームの図面の一部
細かい数字は一応企業秘密なのでモザイクにしました。
やっとの思いで当社初のスチールフレームが完成。ここまで何ヶ月掛かったかは、もはや忘れました(汗)。
こうして実現できた薄いベースのフレーム。
表面は無垢のナラ材で囲われているので、一見すると木材でできている様に見えますが、その内部がスチールとなっており、強度は抜群です。
次の制約「座り心地」
「NORTH」の特徴はNSSGさんが考えたスケール対比。その寸法には「背が低い」という特徴があります。
一方、ソファにとってなんと言っても大事なのがその「座り心地」です。
「座り心地の良いソファ」の定義は様々です。そもそも人によります。
MANUALgraphの「座り心地」の定義は、「そのソファらしい座り心地」です。
ではこの「NORTH」らしい座り心地とは…
ここで冒頭のNSSGさんのテキストに立ち戻ります。
強調されないソファのムードが凪のように静かな存在感を示しとあります。
「強調されないソファのムード」…ですか。
強調されないソファのムードを実現するポイントの一つが背の低さであることは間違いなさそうです。
つくり手の僕らとしては「背が低いけど座り心地は良い」を実現しなければなりません。
そこで採用したのが、フェザーを大量に使用したクッションです。
フッカフカだけど「強調されないムード」程度のフッカフカさ。
書いていて自分でも意味が分からなくなってきましたが、実際に座ってみるときっとお分かりいただけると思います。
そんな座り心地(どんな?)を実現することができました。
試作第1号。「強調されないムード」の座り心地が見て取れますね(笑)
「NORTH」はなぜ「NORTH」なのか。
最後に「NORTH」はなぜ「NORTH」なのか、です。
何度か試作を重ね遂に完成したNSSGさんと共同開発したソファ。
ソファが完成し、これまた彼らのディレクションのもと商品撮影も終わり、クリエイティブもある程度完成した上で、僕は
「名前どうする?」
と町田くんに尋ねました。
彼は「ちょっと考えさせて」と言ってそれから数週間が経ったと思います。だいぶ悩んでくれたようでした。
1通のメールが彼から届きました。
「NORTH」か「SOUTH」で。
と。
「どっちでもいいんかい!(笑)」と突っ込みたくなりましたが、クリエイターさんの考えることには深くツッコミまず、無事に「NORTH」に決まりました。
MANUALgraphのソファには1台1台にストーリーが必ずあります。
この「NORTH」には、バンド時代から数えるとかれこれ20年近い旧友町田くんと、彼の会社NSSGさんと僕のブランドMANUALgraphの、お互い別々の道で大人になってきた軌跡の中で、そして「制約」の中で生まれたかけがえのない1台です。
皆さんの暮らしに
「強調されないソファのムードが凪のように静かな存在感」
をお届けできる自慢の1台です。
最後までお読みいただきありがとうございました。